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かなこがゆく!~糸魚川市駅北大火~

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平成28年12月22日に発生した糸魚川市駅北大火。現地は目黒区にもある木造住宅密集地域(以下「木密地域」)でした。
区議会議員として木密地域の防災力向上を重要政策の一つに掲げて活動しており、また目黒区消防団運営委員会委員・目黒消防団第8分団団員・防災士でもあることから、目黒区の木密地域の防災力向上のために現場を見て気づきを得たいと思い、今年1月に糸魚川市を訪れました。
その後5月19日に、消防庁は、「糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方に関する検討会報告書」(以下「検討会報告書」)を公表し、各自治体へ対応を依頼しました。
今回は、検討会報告書や消防庁の各自治体への対応依頼等から、糸魚川市駅北大火での消防団の活躍等について糸魚川市を訪れた際に見聞したことと併せてご紹介します。


1 火災の原因と状況

まず始めに火災原因と被害状況について振り返りたいと思います。被害状況の写真は、今年1月に訪れた際に撮影したものです。

(1)火災原因

糸魚川消防は、「木密地域」「強風」「消防力の不足」という3つの要因が重なったと説明しています。

①木密地域

○1つ目は、木造家屋などの建物が密集していたという状況です。江戸時代から今日まで大規模火災は13回発生していましたが、古い街並みは観光資源でもあるなどのため、防火のために街並みを変えることは容易でなかったようです。

○密集市街地の火災の危険度を判断する目安に「不燃領域率」があります。不燃領域率は地区内に公園などのスペースや鉄筋コンクリートなどの燃えにくい建物がある割合を示したものです。不燃領域率が20%程度であると地区の消失率は50%を超え、隣接地区に延焼する可能性が高くなりますが、不燃領域率が60%以上になると焼失率は低下し、隣接地区への延焼の危険性も低くなります。

○糸魚川市の市街地の不燃領域率は30%から40%ほどでした。ちなみに、目黒本町5丁目地区は不燃領域率70%を目標にしていますが、現状は51.2%で目標には程遠い状況です

②強風

○2つ目が強風です。12月22日の火災発生時刻の最大瞬間風速は23.1メートルで、その後さらに風が強くなり、12時には27.2メートルに達しました。最大瞬間風速27.2メートルを時速に置き換えると、時速約100キロにもなり、樹木が折れ、何かに掴まっていないと立っていられないような強風です。

○屋根瓦が難燃性であっても、屋根瓦の隙間から火の粉が侵入し、屋根瓦の内側に集積する「飛び火」と呼ばれる現象がありますが、今回はこの飛び火により約10か所で同時多発的に火災が発生しました。

③消防力の不足

○3つ目がこの火災に対しては消防力が絶対的に不足していたという状況です。

○国は、人口をベースに配備する消防ポンプ車の基準を示しています。例えば、人口1~2万人は2台、人口3万人は3台、人口4~5万人は4台とされています。人口4万4千人の糸魚川市は4台配備する必要があります。実際には消防ポンプ車6台、小型動力ポンプ付水槽車・積載車各1台、はしご自動車(30m)1台、化学消防車1台、指揮車2台と基準を上回る数の消防車が配備されていましたが、火災の拡大を防ぐことはできませんでした。

○宮崎益輝・兵庫県立大学防災教育センター長によれば、6台の消防ポンプ車では1つの火事が盛んに燃えているときに周りを取り囲むのが精一杯で、飛び火で火災が2つ3つ同時に発生するとその火災を消火することはできないそうです。今回は約10か所で同時多発的に火災が発生したので、6台では全くの力不足でした。

○この人口に見合った消防力には落とし穴があります。糸魚川市(面積746.2km²)とほぼ同じ面積の新潟市(726.4km²)と比較してみましょう。先ほど述べた通り、基準上では、糸魚川市の消防ポンプ車の台数は4台とされますが、人口80万人の新潟市は何と47台となります。消防署の数も糸魚川市は4か所ですが、新潟市は34か所。広さに対して消防力が圧倒的に不足している糸魚川市の現状が浮き彫りになります。この消防力の不足は糸魚川市に限ったものではなく、市町村合併を繰り返し面積が広くなった市町村に共通の問題です。本当の消防力はその都市が有する火災の危険性に応じて持つ必要があります。


(2)被害の状況

下記の写真は、火災から約1か月後の今年1月の現地の様子です。火災で焼失した瓦礫の撤去が懸命になされており、そこかしこで焼け焦げた匂いがしていました。

○印が火元のラーメン店です。火元の裏側一帯が焼失しています。上部には日本海が見えています。
火元のラーメン店の正面です。隣の建物との距離が殆どない様子が見て取れます。真っ黒に焼失している裏側と異なっているのは、こちら側から消防による消火活動が行われたためではないかと感じました。
火元のラーメン店の裏側です。広範囲に焼失していますので、ここから火災が拡大していったことが分かります。瓦礫の処理活動が休みなく行われていました。
ここは火災の難を逃れた場所ですが、ここ一帯にはこのような道路が数多くありました。この狭さでは通常の消防車は入って来ることができません。
写真の上部が火元方向です。火元から200~250メートル位離れていますが、ここまで激しく焼失していました。飛び火の恐ろしさを目の当たりにしました。
建物内部は見るも無残な状態です。これだけの大火でありながら、死者が一人も出なかったことに安堵の気持ちでした。
電柱に共架されている標識も真っ黒にしかも変形していました。火災の持つ熱の威力を見せつけられた思いでした。
奥の建物の向こうは国道で、国道の先は日本海です。火元から300メートルは離れています。海でなく住宅だったらもっと広範囲に火災が広がったのではないかと恐怖を覚えました。
市の関係者やボランティアなど様々な方々が焼け跡から思い出の品を探していました。一つ一つ手作業で丁寧に掘り出していたのが印象的でした。
周囲が焼失したにもかかわらず、ほぼ無傷だった「奇跡の木造住宅」と報道された住宅です。
火に強いステンレスのトタン板を外壁に使い、屋根の軒先は火の粉が入りにくい設計としたなど、防災特別仕様だったとのことです。改めて災害に強い家作りの重要さを痛感しました。

2 消防団の活躍

私は、目黒消防団第8分団団員・防災士として、実際に消防団活動を行っています。また目黒区議会議員として、目黒区消防団運営委員会(委員長:青木英二目黒区長)の委員をしています。これは、消防団の組織の整備を図り、その運営を円滑に行うため、都知事の付属機関として設置されている委員会です。

今回の検討会報告書では、消防団は地域に必要不可欠な存在であり、更に力を発揮できるよう充実・強化していくべきと評価されていますので、消防団にスポットライトを当てて、今回の活動と今後の展望についてご紹介したいと思います。

(1)糸魚川市消防団の概要


(2)大火当日の活動

①出動体制

○火災覚知から1分後、糸魚川市消防本部から、防災行政無線及び安心メールにより建物火災発生の連絡及び消防団の出動指示(第一出動)が行われました。

○火元建築物の東側及び北側建築物への延焼拡大が認められたことから、10時47分、延焼のおそれがあるとして、糸魚川市消防本部から第二出動指示が行われました。

○その後11時35分に第三出動指示が行われ、12時26分には更なる延焼のおそれがあるとして、消防団積載車全車両出動指示(第四出動)が行われました。


②活動の開始

出動指示を受け、出火エリアを管轄する消防団(糸魚川方面隊)の第一出動隊として、可搬ポンプ積載車7台が出動しました。10時40分、2台が現場に到着し、第二出動の指示直後の10時50分から活動を開始しました。

○1台はエリアA(火元建築物が存在する街区)の西にある防火水槽に部署し、エリアA・B間の路地に南側から進入し、1線にて放水活動を実施しました。残りの1台はエリアDの南側で奴奈川用水に部署し、エリアA西面から1線にて放水活動を実施しました。

○この2台に加えて11時00分までに5台が到着し、この時点で消防団は7台7口となりました。

○10時47分の第二出動の出動指示により、可搬ポンプ積載車22台、能生方面隊本部車両1台及び青海方面隊交通警戒隊車両1台が出動しました。第二出動隊の全ての車両は12時00分までに活動を開始し、消防団は31台26口となりました。

○11時35分の第三出動指示により、更に可搬ポンプ積載車15台が出動しました。第三出動隊の全ての隊が活動を開始した13時00分には、消防団は46台35口となりました。

○12時26分の第四出動指示により、可搬ポンプ積載車が更に27台出動し、14時30分には、消防団は73台50口となりました。


(3)生の声(糸魚川市消防との意見交換会より)

平成29年3月27日、糸魚川市消防士長・消防団長など糸魚川市消防関係者と、自民党総務部会・地域の自主防災力強化に関するPTとの意見交換会が開催されました。そこで披露された「消防団としての消火体制」に係る生の声をご紹介します。この生の声の一部は、その後検討会報告書や消防庁の依頼に取り込まれています。

①消防団の招集は上手くいったと思うが、消防団が消火困難に陥ったのは、通常上にあがる煙が風が強く横に流れ、メガネ・マスクがなかったため目・鼻をやられたためである。

②踏み抜き防止用の長靴は配布していたが、勤務地から駆け付け自分の通勤靴で現場に入った者もいて、怪我をした人もいた。ヘッドライトも必要。

③今回消防団がやらないといけない仕事を地域の皆さんでやって頂いた。二次災害を起こさなかったのは地域の協力も大きい。

④離れた地域の人が応援に来て水利の状態も把握できていなかった。


(4)検討会報告書での指摘

検討会報告書での消防団に関する指摘事項です。

○今回の火災は、常備消防が一定程度整備されている都市部においても、地域に密着した消防団の力が不可欠であることを再認識させるものであり、消防団がより力を発揮できるよう、装備も含め、その充実強化に取り組むことが必要である。

○木造の建築物が密集した地域において強風下に消火活動を行う場合、煙や飛散物により目を負傷する危険性が高いため、消防団員に対してシールド付き防火帽などの必要な安全装備の充実、正しい着装の徹底等により、安全管理を徹底することが必要である。

○消防団の所有する可搬ポンプについて、日常からの点検及び訓練が必要である。

○消防団活動の円滑化・連携のため、情報通信機器の充実及び訓練が必要である。

○これらについて、消防庁による支援のあり方を検討することが必要である。

○一方、全国的に、人口減少や高齢化等に伴い、消防団員数の減少が課題となっている。このため、引き続き、女性や若者をはじめとする入団促進、機能別団員制度や勤務地団員制度の導入、消防団協力事業所に対する優遇制度の導入、報酬の充実等により、消防団員の確保・充実に取り組むことが必要である。


(5)消防庁の各自治体への依頼

検討会報告書を受け、消防庁が各自治体へ依頼した内容のうち、消防団に関するものをピックアップしました。いずれも大事なことばかりですが、特に女性や若者をはじめとする消防団への入団促進はハードルがとても高い難題です。

①消防団の充実強化

本火災は、常備消防が一定程度整備されている都市部においても、地域に密着した消防団の力が不可欠であることを再認識させるものであったため、消防団の充実強化に向けて、女性や若者をはじめとする消防団への入団促進、消防団協力事業所に対する優遇制度の導入等を進めること。

②安全管理の再徹底

本火災において、強風により目に異物が入り消防団員11名が受傷し、また、装備品以外の長靴を着用していたため釘の踏み抜きにより消防団員2名が受傷したことから、消防団員に対するシールド付き防火帽などの安全装備の充実、正しい着装の徹底等を図ること。

③資機材点検・訓練の徹底

本火災において、放水活動に用いた消防団の保有する可搬ポンプの約3割に不具合が発生し、そのうち中継送水時の過大圧による破損など機器の不適切な取扱いによるものもあったことから、可搬ポンプをはじめとする消防団の所有する資機材について、点検整備及び取扱い訓練を徹底すること。

④情報通信機器をはじめとする装備の充実・訓練

本火災において、消防団に配備されていた携帯用無線機の数が限られており、広範囲にわたる火災現場において指揮本部からの指示が行き届かなかったことから、消防団の装備の基準の一部改正(平成26年2月7日)を踏まえ、情報通信機器の集中的・計画的な配備及び訓練を推進すること。


3 最後に

糸魚川市駅北大火から半年強の月日が経過しました。糸魚川市は、古い町並みを残しながら火災に強いまちづくりを進める復興計画を8月に最終決定する方針ですが、被害を受けた地区の住民や事業者のうち3割は元の場所に戻ることをすでに断念したとのことです。一日も早い復興のために私にできることをこれからも続けたいと思います。

そして、今回の検討会報告書の提言と消防庁の各自治体への依頼がしっかり現実のものとなるか注視する必要があります。

私は、目黒区の、特に木密地域の防災力向上のため、目黒区議会議員・目黒区消防団運営委員会委員として、さらに現役の消防団員・防災士として、検討会報告書と消防庁の依頼内容をどのように目黒区の木密地域の防災力向上につなげるか、日々の様々な立場での活動を通じてしっかり取り組んで参ります。


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